気温が高くなってくると、気になるのが害虫です。刺されて赤く腫れるのもイヤですが、黒光りする影が部屋の壁をかけ上るのを見かけると…絶叫してしまうという人も多いでしょう。そんなとき頼りになるのが、殺虫剤。CMでも毎年たくさんの新製品を紹介していますが、殺虫剤にはどんな歴史があるのでしょう。ゴキブリを始めとする害虫との戦いに勝利はあるのでしょうか。あまり楽しい話題ではありませんが、害虫を制するためにも殺虫剤について学んでおく必要がありそうです。
<目次>
殺虫剤はどのように誕生し、進化した?〜殺虫剤の歴史〜
殺虫剤の歴史は人類の農業開始から始まった
人類が「殺虫剤」を最初に必要としたのは、農作物を荒らす害虫駆除の必要に迫られたことによるものです。恐らくはそれ以前にも、毒虫に刺されるなどの被害から、煙でいぶしたり草の汁を塗ったりと、忌避剤的に対処していたことが考えられます。日本でより積極的に「殺虫」を行ない始めたのは、江戸時代の害虫による大飢饉がきっかけです。当時はクジラの油などを使い、稲につく虫を処理していたようです。
その後も、毒キノコやタバコ、ハエドクソウ(植物)などの天然の殺虫成分を用い、ウジ虫などの駆除を行なっていました。なかでも除虫菊は人畜への害が低く、殺虫効果が高いため、19世紀ごろから盛んと使われてきました。現在でもおなじみの蚊取り線香は、除虫菊成分が今でも一部に利用されています。
1930年以降には、DDTや有機リン酸系の殺虫剤が用いられるようになりましたが、人や自然に対する有毒性が問題となって次第に使われなくなり、世界的に使用禁止となっています。近年は、自然界に存在する有毒成分であるアルカロイド系毒素を、植物から抽出するなど、自然界で分解できる殺虫成分の開発が進められています。先に挙げた除虫菊の成分やニコチンの毒性なども取り入れ、人畜に害がなく、虫の神経毒となるような成分を利用している商品も多いようです。
ゴキブリ用殺虫剤は
今でこそ、ゴキブリ用殺虫剤の市場は250億円規模ともいわれていますが、その歴史は50年ほどです。ゴキブリ自体は直接危害を加えるものでなかったため、1960年代まではあまり問題視されてきませんでした。都市化が進み、下水などが整備されるにつれて、ハエや蚊、その他の害虫は減ってきました。一方で、鉄筋構造の建物が増え、冬でも気温が保たれることもあって、ゴキブリが急激に注目されるようになったのです。
生命力の強いゴキブリに対しては、有機リン系殺虫剤ジクロルボスという強力な殺虫効果を持つ物質が主に利用されてきました。しかし、毒性が強いことから、スプレー剤、くん煙剤ともに、天然除虫菊の成分に似た化学物質ピレスロイド系への移行が進んでいます。
ゴキブリの駆除方法としては、スプレー剤、くん煙剤のほか捕獲器、毒餌など。ゴキブリ駆除関連のヒット商品としては、1973年のゴキブリ捕獲器、1989年にアメリカ企業と共同開発した毒餌型などがあります。
ゴキブリはどのように誕生し、進化した?〜ゴキブリの歴史〜
実は地上の主ともいえる?ゴキブリの存在
恐ろしいことに化石などの発見から、ゴキブリは少なくとも3億4000万年前には、出現していたといわれています。最古の恐竜は2億3000万円前、人類に至っては400~300万円前なので、いかにゴキブリが長い間生き延びてきたのか、その歴史には驚いてしまいますよね。しかも、ゴキブリはその当時と外観がほとんど変わっていません。長い触覚、扁平で頑丈なつくりは、わざわざ進化を必要としないほどの、ある意味の完成形ともいえます。
ゴキブリが発生した時代の石炭紀には、朽ちた木や腐った葉など、食料に困ることはなかったようです。外敵となる生き物もわずかで、大型昆虫の登場はまだまだ先。せいぜいムカデやクモ、原始的な魚程度が最大の敵だったのでしょう。
ゴキブリを世界中にバラ撒いたのは人間?
生命力にすぐれたゴキブリは、地球表面の地形が何千万年もかけて分離するに従い、各地に散らばっていきます。どんな気候でもしぶとく生き残るゴキブリにとっては、多少の環境の変化はさほどの苦難ではなかったはずです。そしてゴキブリの隆盛に拍車をかけたのは、誰あろう、私たち人類なのかもしれません。火を用い、食料を備蓄する人間のそばで、ゴキブリたちは楽に冬を超し、食べ物に困ることもなくなりました。しかも、好奇心旺盛なこの大型動物は、地球上のあらゆるところを移動し、住居を作り上げます。その積荷や衣服に潜むだけで、ゴキブリたちは子孫を世界中に繁栄させることができたのです。
今日では、人間がいる場所にはゴキブリは必ず見られるといいます。アルプス山頂の山小屋でも、鉱山の炭鉱、深海潜水艇のなかにまで潜んでいます。公式記録ではありませんが、宇宙船の中でゴキブリの死骸が見つかったという報告もあるようです。ゴキブリは食物も水もなくても1か月生き延び、他の動物の皮膚、糞、毛などすらエサとします。万年筆のインクを飲んでいた、切手の裏の糊をなめていたなどの都市伝説が生まれるのもうなずける話なのです。
ゴキブリに殺虫剤は効かなくなる?〜殺虫剤のパラドックス〜
吹きかけ過ぎるとモンスター化する?進化型ゴキブリ誕生
どの生物も、危険を回避できた個体が進化の礎となってきました。現在世界中の問題となっているのが、「殺虫剤抵抗性」をもつゴキブリです。インフルエンザなどのウィルスでも、それまでの薬が効かなくなるニュースを良く耳にします。それと同様の現象がゴキブリにも起こるのです。
ある地域でせっせとゴキブリ用のスプレーを噴射していたところ、そこに出現するゴキブリにそのスプレーがまったく効かなくなったという事例がありました。そしてそのような話は、珍しくはありません。殺虫剤をかけられても死ななかった抵抗力の強いゴキブリが、巣に戻って子孫を残せば、それだけ抵抗力をもった個体が増えます。くり返されるごとに抵抗力は強まり、最終的にはまったく効果のないものとなるわけです。
ゴキブリとの戦いは続く
「殺虫剤のパラドックス」といわれるこの現象に終止符を打つために、殺虫剤を製造する企業では「強い殺虫効果」から、別の視点に切り替える試みを行なっています。
耐性がついてしまう毒性によってではなく、ゴキブリの身体の構造的な弱さを攻撃する方法です。「窒息型」殺虫剤の開発や、−75℃の冷気をスプレーする「凍止剤」、泡で固める「粘着剤」などがそれにあたります。これらは、例えゴキブリが生き延びても、耐性を子孫に伝えることはありません。しかも、身体の生存機能を攻撃することにより、徐々に衰弱して死に至ります。有史以前からの、自然の驚異ともいえる生命力をもつゴキブリに対し、後発の生き物である人類は、永遠に戦いを挑み続けなければならないのかもしれませんね。
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。