その名も「万年筆」という程ですから良い万年筆は、一生もの。親子で引き継がれることもあります。しかし、万年筆の命であるペン先が傷むと、当然使い物にはならなくなります。万年筆のペン先はどれほどの寿命なのでしょうか。また壊れた場合の修理はどうすれば良いでしょう。ここでは、万年筆を長く使うために知っておきたいペン先について見ていきます。
<目次>
万年筆のペン先には寿命がある?
ペン先はダイヤモンドに次ぐ固さ
万年筆のペン先に良く書かれているのが、14金・18金・21金などの表示です。インクは酸性のため、腐食に強い金が昔から使われてきました。最近ではより安価な、スチール製のペン先の万年筆も流通しています。柔らかい金属ではすぐに摩耗してしまうため、先端にはペンポイントと呼ばれる耐摩耗合金がついています。イリドスミンというもっとも固い合金で、ダイヤモンドに次ぐ超硬度物質です。イリドスミンは密度も高いため、万年筆に特有のなめらかな書き心地を与えています。ペンポイントは、インクの出方や字幅(EF/F/M/B)に影響しており、取れてしまうと万年筆として機能しなくなります。
1000文字を50年間書き続ける?
ペンポイント自体が摩耗して書けなくなるということは、あまり無いと言います。老舗の万年筆店に持ち込まれる修理でも、ペン先の磨滅で持ち込まれることはほとんどありません。万年筆の筆記能力について、苛酷な環境下での耐久試験で1000文字を毎日書いた場合10年程度使えるという計算結果が得られています。さらに通常の生活の中で使うのであれば、その5倍はもつと推測されています。
万年筆のペン先を交換するタイミング
万年筆が物理的な寿命を迎えることは、そうそうないと思って良いでしょう。ただし、使用するうちにペン先に強い圧力がかかり先端が割れ気味になってしまった場合や、ぶつけたり落下させたりしてペンポイントが破損してしまった場合などは、交換が必要です。
また、破損以外の理由でも、交換した方が良い場合があります。それは、ペン先が自分にフィットしない場合。特に初心者においては、ペン先選びを失敗する場合も多く、「インクが出過ぎる」「扱いづらい」と感じることも。特に注意したいのが、柔らかすぎるペン先。書き方によってはペン先がかなり開くため、インクが出過ぎてしまいます(筆圧の強い方は特に扱いが難しいようです)。
万年筆のペン先を自分で交換するには
メーカーによって難易度が違う
万年筆のメーカーによっては、素人ではペン先を外せないものがあります。また、力任せに外したことにより、新しいペン先をつけてもうまく書けなくなる場合もあります。ペン先とペン芯は微妙な調整でついており、インクの流量がそこで決定されます。外す際にずらしてしまうと、インクが出なくなる可能性があります。また、ペン先のみの販売は行わず、ペン先交換は修理受付でしかできないメーカーも多いようです。
一方でドイツのラミー社製「サファリ」「アルスター」などは、簡単にペン先が交換できる万年筆として作られており、ペン先単体の販売がされています。
ペン先を交換する手順は?
ペリカンのスーべレーンシリーズの一部商品では、ペン芯とペン先が一体となったユニットが販売されています。国産メーカーでは、ペン先のみの販売をしているところはあまりありません。ペン先の交換は次の手順で行います。
- 万年筆内のインクを抜く
- 万年筆の胴部分を抑え、別の手の親指をペン芯の黒い部分に当てる
- ペン先の真ん中を人差し指でしっかりと押さえる
- 胴側をゆっくりと回して外す
- 新しいペン先を付ける
古いペン先を抜く時、新しいペン先を付ける時のいずれも、ペン先を動かさないようにするのがコツです。ペン芯とペン先がずれるとインクの流れがスムーズでなくなったり、インクもれを起こす場合があります。
万年筆のペン先の汚れを取るには
無理にふきとらず水洗いが良策
インクの出が悪かったり、新しいインクを入れ替えても出てこないのは、インクやホコリが乾いて固まったものが詰まっているからです。汚れているからといって、紙などで無理にふき取ると、繊維がひっかかり、さらに詰まりの原因となります。またペン先を乱暴に扱うと「切り割り」と呼ばれる割れている部分を広げてしまい、文字のラインが太くなります。インクは水で溶けるため水道でペン先を洗うだけでも、軽い詰まりであれば解決します。
本格的な手入れは時間をかけて
長期間使っていないなどで、まったくインクが出ない場合には時間をかけて内部のインクを溶かします。準備するものは、深めのコップ、水、汚れても良い布(柔らかく、毛羽のないもの)。
○水洗いの仕方
- 胴とペン先のついた首軸を外す
- カートリッジ、コンバーターは抜いて置く
- コップに水を入れ、ペン先をしっかりしずめる
- ひと晩おく
- ペン先に向けて水を通してよく洗う
洗う際に、熱湯や溶剤、洗剤を使わないようにしてください。樹脂が溶けたり、内部が変形することがあります。ゆっくりと水に浸けることで、ペン先にこびりついたインク汚れが溶けだします。水をふき取った後は、すぐにインクを装着せず、中まで自然乾燥させてください。
万年筆のペン先の修理をするには
ペン先調整から部品交換 一生モノの万年筆
販売店で修理も行うお店ならば、購入先に持ち込むのが一番です。お店によっては購入品については修理の実費だけで、購入品以外の持ち込みは一律の基本料金を取るところもあります。また、各メーカーでは修理や調整などを行なう拠点を置いています。パイロット本社内にペンステーションが万年筆ミュージアム内にあり、インクが途切れる、ラインが太くなったなどのトラブルに対処してくれます。また、セーラーではペン職人が全国の店舗を回るペンクリニックを開催する他、webでも修理受付をしています。モンブランなどの大手ブランドでは、大都市圏の「モンブランブティック」など各拠点で対応しています。
頼りがいのある万年筆職人
郵送で万年筆修理を請け負っている、個人開業の万年筆職人も見逃せません。インクもれ、インクが出ないなどの修理対応の他、キャップ破損や、ペン先調整にも応じています。送る際には、筆記したものを添付すると、筆致のくせやタイプに合わせて調整を行います。
ちょっとした筆記時の引っかかりも、ペン先の調整やインクの粘性など詳細をチェックし、アドバイスがもらえます。万年筆初心者にも、筆記の際の注意点、扱いについてなど丁寧に教えてくれるので非常に頼りになります。海外製品についても、専門店より格安の料金で修理してもらえるようです。
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