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香り高いコーヒーは生活のなかのアクセントとして、世界中の人から愛されています。でもよく考えると、コーヒーはタネの部分を挽いて飲んでいるんですよね。何だか不思議です。コーヒーはいつ頃から人の暮らしに入ってきたのでしょうか。日本で一般人に親しまれるようになったのは?コーヒーの壮大な歴史物語を紐といて、さらなるコーヒー通になっちゃいましょう!

コーヒーって、いつごろから飲まれるようになったの?

有力な二大起源説はなんだかカワイイ

コーヒーの歴史にはたくさんの逸話がありますが、そのなかでも特に有名なのが2つあります。ひとつは、今のイエメンの話。イスラム教の聖職者オマールは、王の娘の病を祈祷で救ったのですが、恋心を抱いたせいで山のなかに追放されてしまいます。空腹に苦しむオマールの前に一羽の美しい鳥が現れます。鳥に導かれるように赤い実からスープを作ったところとても元気になり、その実が話題となったおかげで街に帰るのを許されたという話。

もうひとつは、エチオピアに住んでいたアラビア人のカルディという山羊飼いの話。自分の飼っていた山羊たちが赤い実を食べていて、とても元気だったので、自分も食べてみたそうです。このうえなく気分爽快になったところから、赤い実がたちまち評判になったとのこと。そういえば、コーヒー店の名前にも使われていますよね。

文献に現れたのは10世紀

伝説はひとまずおいて、コーヒーが実際に文献に登場するのは10世紀初期のことです。イスラムの世界的医学者ラージーが、コーヒーの効用について記述しました。さらに11世紀には、哲学者でお医者さんのイブン・シナーという人が具体的な引用法を記しています。ただ、このころはまだ実をまるごと煮るなどしていたようで、現在のように種子を炒って煮出すようになったのは、13世紀に入ってからと言われています。

日本にコーヒーが伝わったのはいつ?

足利将軍もコーヒーを飲んだ?

今でこそ愛好家で溢れる日本ですが、コーヒーを最初に飲んだのはいったい誰だったのでしょうか。ある説によれば、「足利時代にキリスト教布教の目的で日本にやってきたポルトガル人やスペイン人が、すでに持ち込んでいた」と言われています。本当であれば14世紀にはコーヒーが伝わったことになりますが、広まったという話はありません。

文献で確認できる最初の例は、1782年の「万国管窺(ばんこくかんき)」という蘭学者の志筑忠雄が訳した本のなかにあります。「阿蘭陀の常に服するコッヒーと云ふものは形豆の如くなれどもじつは木の実なり」と書いてありますが、味についての言及はありません。訳本なので、実物はまだ見たことがなかったのかもしれませんね。

日本人はコーヒー嫌いだった?

さらに時代が下った江戸末期には、出島の遊女がお土産にコーヒーをもらうなどしていたようです。オランダ商館の医者であったドイツ人のシーボルトが「日本人があまりコーヒーを飲まないのは、すすめ方が悪いからだ。コーヒーが身体に良いことをよく説明すれば、もっと飲むようになるだろう」と語ったことが伝わっています。

それまで日本人が慣れ親しんできたお茶などと違い、個性的な味わいのコーヒーは一般庶民には受け入れられる飲み物ではなかったのでしょう。嗜好品として親しまれるまでには、まだまだ時間が必要だったようです。

コーヒー店(喫茶店)が登場(流行)したのはいつ?

文明開化とともに「カフェスタイル」が到来

明治になり、欧米文化が一気に広まると、西洋料理店ではコーヒーがメニューのなかに見られるようになります。さらに1888年には、東京の下谷黒門町に「可否茶館(かひさかん)」という本格的な喫茶店がオープンします。それまでは特別な人たちの飲み物というイメージだったコーヒーが、いよいよ庶民の楽しみのひとつとなったのですね。本家本元の「可否茶館」は残念なことに3年足らずで閉店。しかし、その後は次第に喫茶店が増えていきます。

コーヒーの普及はブラジル移民の功績も一因に

「カフェー・プランタン」や「カフェー・ライオン」といった、どこかで耳にしたような喫茶店は明治の末頃に開店しました。コーヒーがさらに広まっていったのは、明治41年に開始された、ブラジルへの移民政策が関係しています。移民の多くがブラジルのコーヒー農園で働き、ブラジル政府は見返りとして大量のコーヒーを無償提供したのです。

「カフェ・パウリスタ」はブラジルコーヒーの普及のために開かれた喫茶店で、最盛期には20を超える店舗があったと言われています。1000人もの従業員のなかには、日本のコーヒーの歴史に大きな功績を遺したキーコーヒーの創業者・柴田文次氏の姿もありました。

今やどこに行っても飲める日本のコーヒーには、こんな長い歴史があったのですね。長崎の出島、文明開化の街角、そしてブラジルのコーヒー農園。芳醇な香りに包まれる一瞬、手のなかのコーヒーがたどった道のりを想像してみてはいかがでしょうか。

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